「訓練を続けていけば、いつかは、すべての単語ひとつひとつがクッキリと聞き取れる
ようになるんだろう」というのは英語のリスニングに関してよくある誤解です。
すべての単語がクッキリと聞こえるようになることはありません。
(英語学習用教材で、特にゆっくりと読まれたものは別です。)
英語の音というのは個別の単語で発音するときと、文中で発音するときは、しばしば
音が違います。文中では、その単語の重要度や機能によっては弱形という、弱い
発音を使うからです。しかもひとつの単語でいくつもの弱形があることもあります。
この弱形は、たいてい前後の単語とまとめて発音されますが、クッキリ聞こえることはないのです。
これに加えて、文中ではラクをして自然に発音するために音をつなげたり、音を変えたりと いった
省エネ発音も使われます。(弱形も省エネ発音の構成要素の一部と考える こともできます。)
そうすると、ますます個々の単語をクッキリと聞き取ることはできなくなります。
カジュアルさが増した会話では省エネ発音が多用されるので、曖昧なモゴモゴした
カタマリだらけになってきます。再生速度を遅くするソフトを使っても、早いモゴモゴが
ゆっくりしたモゴモゴになるだけで、個々の単語がクッキリしてくることはありません。
リスニングを伸ばすにはものすごく大切な精聴トレーニングで、何度聞いてもクッキリ
聞こえてくれない、ネイティブ耳への道は遠い~、と落ち込む人がいますが、
ガックリする必要は全くないのです。
そういう音は、英語のネイティブであっても、その箇所だけ聞かせると、何の
音かわかりません。せいぜい候補となりうる単語や単語群を挙げられるくらいです。
「そんなもの聞き取ろうとして何になるわけ?」と不思議がられます。
弱形の発音と省エネ発音に悩まされていたアメリカ留学中の私は、テレビドラマを録音して聞き取れない部分をネイティブの友人たちに聞き取ってもらっていました。驚いたのは、 ひとつの文だけ聞いたのでは、たとえネイティブであっても聞き取れなかったり自信がない ことがあったことです。日本語だとそういうことってないんじゃないでしょうか。
そして文単位で聞き取れないときは誰もが必ずその部分の前後のセリフを聴きたが
ります。会話の文脈をもとにしてモゴモゴとした音のカタマリの部分を推測するのです。
洋楽の歌詞を掲載したサイトがたくさんありますが、「ここは自分にはこう聞こえたが」
という注意書きの入っていることが時々ありますね。モゴモゴしたカタマリの単語の
候補がいくつかあって、どれでもその文の意味が通ってしまうときもたまにはあるから
です。
『タモリ倶楽部』の「空耳アワー」というやつご存知でしょうか?日本語以外で歌われ
てるけれど、まるで日本語のように聞こえる歌詞、というやつです。実は、英語ネイ
ティブの耳で英語の歌を聴いても、勘違いということが結構おこるんです。
Kiss This Guy というサイトでは、ネイティブによる歌詞のユーモラスな聞き違いや
勘違いを集めてます。オリジナル曲の音声ファイル付のものもあるので、聞いてみる
と「なるほどこんな勘違いをネイティブだとするわけだ」と感心(?)するかも。
この「前後関係、文脈にもとづいたモゴモゴしたカタマリ部分の推測能力」を身に
つけるには多量の英語に触れていくことです。まず多読、そして、自分の読解レベルと
同じか、ほんの少しだけ高い素材を使った多聴を続けることでこれはできます。
また、精聴トレーニングでは、このモゴモゴしたカタマリがどのような単語(群)で
あるのか必ず文字で確認、音を耳にすり込み、文字と紐づけして覚えておきます。
音変化には文字と関連したパターンがあるので、この作業を続けていけば、
あならの頭の中に弱形と省エネ発音のデータベースができてきて、次第に聞き取れる
ようになっていきます。
ところで、日本語というのは実は世界の言語の中でも聞き取りやすい言葉です。
その大きな理由は、「ん」をのぞくすべての音が母音で終わるからです。
母音って、確かにはっきり聞こえますよね。
で、語尾の子音というのは、私たち日本人にとっては聞こえにくいヤッカイな音ですが、
これは英語ネイティブにとっても同じこと。語尾の子音について俳優の Bill Cosby が
こんなジョークを言ってます。
Always end the name of your child with a vowel, so that when you yell the name will carry.
子供に名前をつけるときは語尾を母音にしな。怒鳴りつけるときに遠くまで聞こえるから。
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