TOEIC満点でも英語が話せない理由とは?

TOIECは高得点なのに、ほとんど何も話せないという人は実にたくさんいます。英語を話すのに必要な語彙と文法知識は十分に持っているはずなのに、いつまでも話せるようにならないのです。業務の英文メールは苦労せずに読めるし、時間さえかければ書ける。AI翻訳を使う時は翻訳の問題点に気づけるといったレベルまで来た。それなのに話せない。実にもったいないですね。

この人たちには何が足りないのでしょうか?あとは、どんな勉強をすれば覚えた知識を生かして話せるようになるのでしょうか?

知識が技能までに落とし込まれていない

実は、TOEICが高得点なのに話せない人たちに必要なのは「勉強」ではなく「トレーニング」です。話せないのは、これまで知識を身に着ける「勉強」ばかりしてきて、その知識を「技能」に転換させるトレーニングをしていなかったからなのです。


では技能とは何か?

楽器演奏やスポーツが上手、ブラインドタッチでのタイピングができる。こうしたことが技能です。そしてTOEICで高得点を得ても技能は身についていません。テストで要求されるのは、知識をもとに、何が正解なのか判別できることだからです。

TOIECや大学受験の準備は、いわばテニスのストロークや野球のバッティングのフォームを動画で学んで、何が正しいフォームなのか知識として判別できるだけの状態。

でも、正しいフォームの知識だけでは試合に出て活躍できるはずはありません。テニスやバッティングなら素振りを繰り返して正しいフォームを体に覚えこませることが絶対に必要です。英語も、知識を得ただけの段階なのだから、まだ話せないのは当たり前なのです。

では英語習得において、テニスやバッティングの素振りに当たるものは何なのでしょうか?

答えは単純。知識を技能に変えて話せるようになるためには、何度も何度も実際に口に出して繰り返すことが必要不可欠なのです。

大量の反復練習が自動化の鍵

「これはペンです、と英語で言ってください」と言われて、This is a pen.と瞬時に言えない人は、日本人には珍しいかも知れません。頭の中で和文英訳しないと言えない人というのも稀でしょう。

そして多くの人は、a pen の代わりに他の単語を入れたり、文を疑問文にしたりすることで、この文型を使って他のことも言えるのではないでしょうか。

つまり This is a pen. という文に関しては、この文が単なる知識でなく技能にまで転換されている。

この「知識→技能」への転換は「知識の自動化」と呼ばれます。

そして、自動化にいたったのは、この This is a pen.というセンテンス、あるいはThis is [名詞].という形のセンテンスをこれまでに、数えきれないほど何度も口にしてきたからです。

他のセンテンスに対しても、同じことを行なえば、そのうちいろいろなことが言えるようになるわけです。

This is a pen./This is [名詞]. と言う文に関しては、中学1年の頃からさまざまな状況で自然に何度も繰り返してきた。

では、これから使えるようになりたい役に立ちそうな文や文型を選んで、それを意識的に練習するには、どのくらいの量をこなしたらよいのでしょうか?

「同時通訳の神様」の反復推奨回数は500回から1000回

口頭での反復練習が話せるようになるための決定的要素であることは、昔から分かっていました。
英語が話せるようになった人は、誰でも反復練習を行なってきたのです。

いわゆる「英語の達人」という人達のエピソードや著作では、必ずといっていいほど口頭反復練習の必要性が強調されています。

たとえば「同時通訳の神様」と呼ばれた國広正雄氏。日本で最初に音読を広め、ロングセラー「ぜったい・音読」シリーズを書かれた方です。國広氏は「只管朗読」という「ひたすら音読をする」というコンセプトで「1つのテキストを500回、1000回と繰り返す」ことを推奨しました。

アメリカ口語表現の辞書編集者で、「話すための文法」を指導してきた市橋敬三氏は、「1つの例文について最低80回、理想としては130回、音読する必要」があると述べておられます。

外国人でも同様。たとえばドイツの実業家・アマチュア考古学者であったハインリッヒ・シュリーマン

商売のために、と始めた英語を皮切りに、なんと12カ国語を操るようになったそうです。彼の自伝によると、あらゆる隙間時間を活用して当時イギリスで出されていた人気小説2冊をほとんど覚えてしまうまで繰り返し読んだ。そして大量の音読を行なった。頭が興奮して眠れないので覚えてしまった英文を夜中に繰り返していたとのこと。

(ちなみに発音はどうしたのかというと、日曜日に2回、イギリス系の教会の礼拝式に行き、説教を聞きながらその一語一語を小さな声で真似ていた。つまり今でいうリピーティングやシャドーイングを行なっていたそうです。)

こうした、英語の達人の話を聞くと、圧倒されてしまうかも知れません。「500回、1000回の繰り返し。小説2冊丸暗記」などと言われると、もう体育会系。(まあ、実際体育会系的な部分はあるんですが。)しかし、なぜ大量の反復練習が必要なのかは最近になって脳科学的にも、その理由が明らかになっています。(詳しくは「知って納得、記憶の分類」を)

数をこなしさえすればいい?

「じゃあ、要するに何回繰り返せばいいの?」と気になると思います。

まず言えることは、80回、130回、500回といった数にこだわる必要はないということ。

むしろ「●●回やりさえすればいいそうだ」とマニュアル的に考えてしまうのはマイナス。言語学習というのは、そういうマニュアル的アプローチだと、一定レベル以上には絶対伸びません。

それに、機械的に数だけこなすのでは苦行になってしまう可能性も高い。
トレーニングの質を上げようとして「熱心に繰り返しているうちに、一回の練習でいつの間にか10回は繰り返してしまっていた」といった形になるのが理想です。

じゃあ「トレーニングの質をあげる」とは?

はい、練習中に必ず留意したい点があります。

反復練習で着実に効果を出すには

反復練習で効果を上げるのに大切なポイントがあります。

1.機械的に繰り返すのでなく、自分ごととしてイメージしながら繰り返す。

テニスの素振りでも、「ボールを実際に打っているつもりで、ボールがどこにいんでいったかまで見届けるつもりで練習」と言われるそです。そうやって100回素振りをしたほうが、漫然と800回するよりずっと効果がある、と。言い換えれば「体で覚える」ということです。

この点も実は昔から言われてきたことです。たとえば上述の市橋敬三氏は「(音読は)精神統一をし、各例文の状況を目に浮かべながら行うと効果的」と述べています。「精神統一」などと言われると、これまた単なる精神論、「マインドセットが大事」みたいな響きがあるんですが、これも脳科学的にその重要性が明らかになっています。(詳しくは「知って納得、記憶の分類」)

2.暗記しようとしない。

「何度も繰り返して口に出しているうちに自然に覚えてしまった」という状態になるのがベストです。これには、「すらすらと言えるようになってからさらに何度も復習する」というオーバーラーニングが必要です。
暗記目的の繰り返しでは、話すための英語の回路が頭の中に作られないからです。少し突っ込んで言うと、暗記目的の頭の使い方だと、話すプロセスのうちの「表現したい概念が頭に浮かぶ→言語化する」というステップを経ずに、「与えられた日本語に対応する英文を思い出す」ことしかしていないからです。これだと、実際に話すのと同じプロセスを脳の中で訓練しないので、話せるようになりません。(詳しくは「知って納得、記憶の分類」)

瞬間英作文で有名な森沢洋介氏も「短文暗唱=瞬間英作文トレーニング」を行う際の3つの注意点の人ぐに「暗記しようとしない」をあげていますが、瞬間英作文方式でたっぷりと反復練習を行なっているはずなのに話せるようにならない人は、テスト対策では有効なこの暗記型学習を行なってしまっているのかも知れません。

どのような方法で反復練習するか

反復練習の典型的な方法には以下のようなものが挙げられます。

音読:音声を参考に、文字を見ならがすらすらと言える→文字を見ずにすらすら言える→繰り返す

シャドーイング:音に集中するプロソディシャドーイング→内容をイメージしながら行なうコンテンツシャドーイング→繰り返す

リピーティング:音声のみに頼って文字は見ずにすらすら言える(リプロダクションとも言う)→繰り返す

どのような方法で反復練習をするかということは、それほど大きなポイントではありません。

その時点での自分にとってしっくりくる方法をとればよいですし、複数の方法を混ぜて変化をつけるのもありです。

たとえば、「音声を参考にしながら音読→音声無しの音読→音声を使ってオーバーラッピング→音声だけでリピーティング→(コンテンツ)シャドーイング→リピーティングとシャドーイングでひたすら繰り返す」などという順番で、負荷を高めながら練習していけます。

また、反復練習を効果的に行なうには、瞬間英作文やパターンプラクティスといったトレーニング法も有効です。

タイトルとURLをコピーしました